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研 究内容

私が共同研究者や学生たちと行っている・行ってきた研究内容を紹介します

研 究室の紹介

 哺 乳動物の生態を時間的・空間的に変動する森林環境との関わり合いから検討しています。この変動には自然現象(季節的・年次的)だけで なく、人間活動によって生じた様々な撹乱も含みます。こうした変動に対し、野生動物がどのように適応するのかを解明したいと考えてい ます。また、健全な生態系の保全を考えるなら、哺乳動物が森林生態系に果たす機能についても明らかにしなくてはなりません。哺乳動物 の生態機能が非生物的および生物的環境とどのような相互作用を持っているかについて、野外実験やモニタリングなどによって調べていま す。研究対象は最大は150kgのエゾシカからタヌキ・アライグマ・サル等の 中型、そして数gのコウモリまで幅広く扱ってきました。主な研究フィールドは屋久島と北海道です。

 

主 な研究テーマ

ニホンジカの社会生態

1自然状態のニホンジカの社会関係

 動物の社会行動は個体識別をした上で、個体同士がどんな社会交渉を持っているのか を知る必要があります。残念ながらニホンジカの社会行動に関しては、芝生草原や飼育下での研究が中心で、本来の生息環境である森林内 ではあまり行われていません。今後、野生状態のシカが自然林内でどのような社会行動を行うのか、なるべく多くの個体を識別し、行動観 察によって調査したいと考えています。

 また、識別個体の長期観察により出産率・生存率・初産年齢・出産率や個体数増加率 などのデモグラフィー情報の収集も2001年から屋久島で開始しています。従来、デモグラフィー情報は個体数セ ンサスや 捕獲個体の分析などから推定されてきました。しかし、個体識別を行い、各個体を長期的に観察すれば、より正確なデモグラフィー情報を 収集することできます。この方法なら、哺乳動物で顕著にみられる個体差を検出することもできます。

 島内のシカの遺伝的変異の大きさや遺伝タイプの島内分布を調べることで、シカの島 内の移動や分散について明らかにできるはずです。また、個体識別しているシカの遺伝子を調べることで繁殖成功が解るかもしれません。 そうした遺伝的な分析はこれから徐々に行っていく予定です。

       
     倒木上で採食するオスシカ 
研究例:照葉樹林に 生息するヤクシカの採食生態

一般向け読み物:や くしかノート



2シカが超高密度下での森林更新様式

 屋久島には100/km2を 超えるほどのシカが高密度に生息している森林があります。この森林の動態を1992年から調査して います。そして、植生遷移やシカ・その他の影響により、森林がどのように変化してきたのか、変化していくのか検討しています。この森 林が更新可能かどうかは、森林ギャップが修復できるかどうかに懸かっています。倒木や土石流によってできた森林ギャップを対象に、2005年から木本植物 の定着状況を調べています。これまでの調査から、大きなギャップではシカの嗜好性が高く、林内ではほとんど見ることができない植物種 も含め、様々な植物種が新たに定着・成長していることが解ってきました。



この谷部は十数年前の土石流のため、全ての植生だけでなく、土壌さえも海に流されてしまいました。現状では様々な植物が定着・成長し、植生が 回復してきています。シカも頻繁に採食に訪れていますが、シカが好むとされるカラスザンショウやヤクシマオナガカエデなど、いくつかの嗜好種 はシカの採食を逃れる高さに達しつつあります。揚妻・揚妻-柳原(2018).保全 生態学研究23:145-153HUSCAP_bnr2.jpg
 

   森林生態系における哺 乳類の資源利用パターン

  森林内に自動撮影カメラを多数設置することで、各地の哺乳類の生息状況を調査してきました。対象とする種はシカ・イノシシ・タヌキ・ アライグマ・キツネ・テン・クロテン・サル・ノウサギ・アナグマ・イタチ・ノイヌ・ノネコなど多岐に渡ります。それぞれの動物がどの ような生息環境に多く生息するのか、人為的な生息地攪乱や狩猟・駆除の影響をどのように受けるのかなどについて、地理情報システム(GIS)などを用いて分析しています。また、単に各動物と生息環境との関 係だけでなく、種間関係の検討もしています。



フィールド:和歌山研究林・雨龍研究林・中川研究林・苫小牧研究林・屋久島

研究例:和歌山研究林の哺乳類相 
研究例:和歌山研究林に生息する哺乳動物の分布様式



シカ密度操作実験によるシカと森林生物群集の相互作 用‐大規模野外実験による検証‐
 動物の採食圧が植物の種多様性に与える影響は一般的に、植物の生産性が高い生態系では正の 影響(種数を増やす)が、低い生態系では負の影響(種数を減らす)があることが解っています。この関係を証明するには、採食圧だけで なく植物生産性も実験的に操作した野外研究が必要と考えられていますが、森林生態系においてそのような実証研究はほとんど行われてき ませんでした。そこで、2004年春から苫小牧研究林内のミズナラ林におい て、シカの密度と植物生産性を操作した野外実験を2004年春から行っていま す。シカの密度は、高密度:大きさ約17haの囲い柵に3-5個体導入 低密度:苫小牧の自然密度 密度0:シカを柵により完全に排除 の3段階にしました。森林の生産性は、施肥や伐採を組み合わせ4条件設定しました。こ れまでにシカ密度や植物生産性操作が、林床植物相、木本相、土壌動物相、鳥類相、節足動物相に与える影響を調べてきました。今後 もこの実験系を維持して、さまざまな研究を実施する予定です。(苫 小牧研究林日浦組と の共同研究)


  
シカを導入して高密度化させた森(左)と排除した森(右)。

フィールド:苫小牧研究林

研究例:シカ密度と生産性操作による植物種 数と被度の変化




   自然生態系保全と野生 動物保護管理
 自然生態系の保全を検討する場合には、どのような生態系が「好ましい」のか、まず決めなく てはなりません。そうしないと、どこへ向かって、どんな施策をとったらよいか解らなくなるからです。では、「好ましい生態系」・「回 復すべき生態系」とはどんなものでしょうか?これは、しばしば研究者が「自然が豊かだった」と感じていた1960-70年代の生態系が想定されるようです。そして、現状がどれほどそれからか け離れているかが問題とされます。しかし、中~大型哺乳類の個体群の消長を見る限り、1960-70年 代と言うのは、それらの動物が分布面積も、そして恐らく個体群の大きさも一時的にかなり減少していた時期にあたる地域が多いようで す。そう考えると、その時期は植物にとっては捕食者である動物が不在だったと推測されます。つまり、その時期が自然生態系のバランス が取れていたと考えるのは生態学的に無理があると言えるでしょう。そうなると、1960年 よりも前の時期に動物個体群や植生がどのようであったかを知ることが、自然生態系の保全を考える上で重要になってきます。そこで、過 去の様々な資料に基づいて、1960年以前の動物個体群および植生の復元(推 定)を検討しています。
 実際に自然生態系の保全を行うためには、何らかの目標を設定しなくては始まりません。現実の保全事業では、多くの場合、その目標は 非常に漠然としているために、実施した対策が有効なのかどうか評価することが困難となっています。科学的に測定可能な保全目標を立て る必要があります。そういった目標を立てた後、どのように順応的に対策を進めていけばいいのかについての検討もしています。


研究例:ニホンジカの個体群動態の復元

研 究例:シカ個体群動態から推測される植生の動態
研究例:順応的管理のための戦略的スキーム
京 大リーディング大学院教材:Are deer populations increasing unnaturally? (English)

紀伊半島研究会講演(一部改定):シカ個体群の歴史から自然 生態系保全を 考える-経緯を知ると見えてくるもの-

屋久島西部地域における自然環境保全の方向性の提案
 屋久島の世界自然遺産に指定されている西部地域の自然生態系をどのように 保全していけばいいかについて、環境省・林野庁・鹿児島県・屋久島町に提案を行いました。この提案は西部地域で研究活動を長く続けて きた研究者19名によるものです。
提案書
提案に至った背景
揚 妻(2019)ヤクシカは屋久島 でどのように暮らしてきたのか?その生態・進化・過去から生態系保全を考える


古座川流域の 民俗学
 古座川流域には様々な民俗・風習が引き継がれてきました。私には社会科学のセンスはあまりないのですが、それでも興味惹 かれるものがたくさんあります。ですが、そういったものは徐々に失われてきています。きちんとした記録を残しておくことが必要です。専門 的知識を持った方が調査に入ってくれることを期待しているところです。

  


フィールド:和歌山研究林

研究例:ニホンミツバチの伝統養蜂の 現状(北大・京大合同実習)
平井集落の民話
古座川流域の 祭礼