研究例
シカ密度と生産性操作による植物種数と被度の変化
植物の種の豊富さは植食動物が増えれば、単純に減っていくと考えられがちです。しかし、植物の生育条件(光環境や土壌栄養)がよく、植物生産性の高い環境では、むしろ植食動物がいる方が、植物の種数が多くなることが草原や湖・潮間帯などでの研究で解っていました。
生産性の高い生態系における捕食圧と植物種の豊富さの関係。陸上・海域・海岸・湖沼・河川など様々な生態系において、捕食圧とともに植物種数がおおむね増加する傾向にある。なお、〇は陸上生態系において哺乳類の捕食圧がかかった場合を示す。Plroulx & Mazumder (1998)をもとに作成(揚妻2005より)。
ところが、森林環境においてシカなどの大型植食動物と植物の種数にそのような関係があのかについては、あまり研究されてきませんでした。なぜなら、これ
をきちんと調べるためにはシカ密度や植物の生産性を実験的に操作して検証する必要があると言われているのですが、その実験操作がかなり大変だからです。
私たちは2004年から苫小牧研究林のミズナラ林に約17haのシカ高密度区(約20-30頭/km2)、約2haのシカ排除区(0頭/km2)、約
20haの自然密度区(5-10頭/km2)を設置しました。各密度区内には、植物生産性を高めるための操作(高木伐採・施肥・高木伐採&施肥)を行って
います。そして、これらの実験区において、林床植生をモニタリングをしています。
以下は実験開始から3年目の結果です。この時点では種の豊富さ(種数)はシカ密度によってあまり違いがありません。なお、施肥をすると種の豊富さが低下しているように見えます。これは高い土壌栄養分が一部の種に有利に働いたためと思われます。
一方、植物の被度については、自然密度で高くなっているように見えます。また、高木を伐採することで被度は高められる傾向にあるようです。
ただし、こうした傾向は実験開始後の3年経った段階では、はっきりしたものではありません。この後も実験を継続し、林床植生がどのように変化していくのか、長期的に観測していく予定です。
参考文献
揚妻直樹(2005)食物網.「森林の科学-森林生態系科学入門-」中村太士・小池孝良編.朝倉書店. pp80-85.
揚妻直樹(2009)シカは森林の破壊者なのか?「北方林業創立60周年誌 北の森づくりQ&A」北方林業会編.北方林業会.pp114-117.