200210

「大学演習林の予算に関する新しい積算基準の考え方」の紹介

         全国大学演習林協議会ワーキンググループ

T.WG結成の動機と目的

 全国の大学のなかで23国立大学、1公立大学、3私立大学、計27大学が演習林組織(注)を有している。これらの大学演習林の連絡機関として従来より全国大学演習林協議会(全演協)が組織されているが、本報告書「大学演習林の予算に関する新しい積算基準の考え方」はその全演協のもとに結成されたワーキンググループ(WG)がとりまとめたものである。

 各国立大学演習林に配当される校費の大部分を占めるのが「演習林経費」である。このうちで最も大きな部分に当たる「一般事業費」は「基準額」と「収入見合い」から成っている。「一般事業費」の金額はかなり長い年数にわたり安定的に推移してきたが、2000(平成12)年度に突然、「基準額」が26%減額され、他方、収入額に基づいて配当される「収入見合い」に対する掛け率が大きく引き上げられた。つまり伐採などに伴う収入を多くすれば、「基準額」の減額分を補えるという趣旨であると思われるが、現実にはほとんどの大学演習林が大なり小なり予算減額となり、ついで2001(平成13)年度以降も2000年度と同じ予算体系、予算規模が踏襲されている。

 「一般事業費」の「基準額」はその積算根拠が明らかにされていないが、恐らくかなり以前の事業費積算方法が継続されているもので、今日の実態とは乖離した積算方法のまま、各大学ごとにそれぞれ固定された金額が続いてきたのではないかと思われる。それに対して各大学演習林では、すでに従来の林業経営的な管理運営から、多様な森林機能を確認し保全するための教育・研究、管理運営へと変化している。そのため、当然ながら予算の積算と各大学演習林における執行は矛盾することになるが、そうした矛盾を解決するために、大学演習林をめぐる社会的変化と大学演習林自身の内部変化を踏まえて、現在と将来の大学演習林にふさわしい予算積算体系のあり方を考えるのがWGの目的である。

(注)ここ1、2年、全国的に大学再編成の動きが加速されるなかで、少なからぬ大学が演習林の名称を他の名称に変更しているが、ここでは便宜上、大学演習林の名称をそのまま使用することにする。

U.WGの選出と検討経過

突然の予算削減措置に困惑した全演協は、2000(平成12)年秋に札幌で開催された秋季総会で全演協としてWGを設置すること、そのメンバーは北海道大学、岩手大学、山形大学、東京大学、京都大学、九州大学から選出することを確認した。総会ののち各大学から選ばれたWGメンバーは次のとおりである。

            神沼 公三郎 (北海道大学) 責任者

柴田 英昭  (北海道大学)

澤口 勇雄  (岩手大学)

小野寺 弘道 (山形大学)

山本 博一  (東京大学)

丹下 健   (東京大学)

大畠 誠一  (京都大学)

竹内 典之  (京都大学)

小川 滋   (九州大学)

大槻 恭一  (九州大学)

WGメンバーは2001(平成13)年3月に最初の会合を持ち、それ以降検討を重ね、2002年8月、全演協会長に報告書を提出した。そして2002年10月の全演協秋季総会で報告書が了承された。

V.WG報告書の内容
(1)目次

 WGの報告書「大学演習林の予算に関する新しい積算基準の考え方」は文章だけで35,000字を越える長文であるが、その目次を示しておこう。

目  次

1.はじめに―ワーキンググループ設置の経緯と本報告書の目的

2.森林環境を保全する動きと森林に関する教育・研究の意義

(1)森林の持つ多面的機能

(2)森林環境問題に関する世界的取り組み

(3)わが国における動き

3.大学演習林における教育・研究の動向

(1)大学演習林の変化

(2)大学演習林におけるフィールド科学の教育・研究

(3)大学演習林が保有する保存林、見本林、展示林、展示施設などの意義

(4)各大学演習林の公開と連携

(5)大学演習林による地域住民の教育

(6)国際研究ネットワークとしての大学演習林

(7)教育・研究と森林管理業務の一体化

4.2000年度の予算減額措置が各大学演習林に与えた影響

(1)大学演習林の予算体系

(2)各大学演習林に対するアンケート調査の実施

(3)アンケート調査の結果

1)予算の減額

2)各予算項目の集計結果

      @合計金額

A1999年度の「予算合計金額」に対する2000年度の減額・増額率

B「基準額」に対する「収入見合い」の比率

C「予算合計金額」に対する「収入見合い」の比率

D「予算合計金額」に対する「予算減額」の比率

E「予算合計金額」に対する「大学内での予算措置」の比率

F2000年度の予算減額による影響

5.新しい積算基準とその考え方

(1)森林の維持管理、整備に関する積算について

1)積算項目の分類

2)経費積算の考え方及び基準となる人工数、経費

3)アンケート調査について

4)シミュレーションの結果について

(2)教育・研究に関する積算について

(3)新しい積算基準を導くために

6.おわりに―大学演習林の森林を健全な状態で維持、管理するために

(2)報告書内容の概略

 以下、目次に沿って報告書の内容を要約的に紹介しておこう。

1)「1.はじめに―ワーキンググループ設置の経緯と本報告書の目的」

この部分はWG結成の経緯や目的などを述べたもので、冒頭の「T.WG結成の動機と目的」におおむね一致する。

2)「2.森林環境を保全する動きと森林に関する教育・研究の意義」

 大学演習林における最近の教育・研究のあり方を理解する前提として、本章は森林環境問題に関する世界的及び国内的な動向を明らかにするため、森林の持つ多面的機能を理論的に整理した。森林の多面的機能に関する最も体系だった研究成果として、日本学術会議「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について(答申)」(2001年11月1日)を挙げることが出来る。その成果を援用して森林の社会的、自然的機能を具体的に分類するとともに、同「(答申)」に紹介されている森林諸機能の定量的評価にも言及した。

 ついで、このような森林を保全していく課題が、特に1992(平成4)年の地球サミット以降、世界的に大きく位置づけられるに至っている事実を指摘した。またその動きと軌を一にしてわが国でも、従来に比較して森林環境問題が格段に重視されるようになり、それを多様な角度から教育・研究するフィールドとしての大学演習林の存在意義を強調した。

3)「3.大学演習林における教育・研究の動向」

従来、大学演習林の目的は林学・林産学の教育・研究に資することであり、そのため林業問題の教育・研究や林業の実践が演習林運営の中軸に位置づけられていた。しかし上述のような社会環境の著しい変化のなかで、大学演習林の中心課題は森林の持つ多面的機能をさまざまな角度から教育・研究する環境問題へとシフトし、林業問題はそのなかに包摂される状況になっている。すなわち大学演習林は近年、広範な森林環境問題を教育し研究するフィールド科学の場として位置づけられるようになり、教育・研究と森林管理の一体化が図られているのである。

その具体的形態は、大学内外のさまざまな研究者等による演習林の利用、大学間・大学演習林間の連携による利用、海外の大学演習林との相互利用、地域住民を対象にした啓蒙活動など、多彩な形態に富んでいる。図−1は特に地元住民に対する公開行事の実施を示したもので、国民を啓蒙するうえで大学演習林はすでに非常に大きな役割を果たしているといってよい。

4)「4.2000年度の予算減額措置が各大学演習林に与えた影響」

 本章は、冒頭に述べた2000(平成12)年度における突然の予算削減が各大学演習林に具体的にどのような影響を与えたのかについて27大学演習林にアンケート調査を行い、その結果を述べたものである。

 表−1に見るとおり、2000年度における各大学演習林の予算減額は明らかである。こうした予算削減のなかで各大学演習林がどのような対応をとったのか、図−2がそれを示しているが、なかでも育林関係にしわ寄せした大学演習林が最も多い。各大学の緊急避難的対応がこうして森林の整備・管理を手抜きする形態に集中したのは、育林作業の自然的、技術的性格からして当然といえばいえるが、しかしこのような手抜きを継続すると森林は必ず荒廃する。長い目で見れば、大学演習林の教育・研究を遂行するためのかけがえのない環境的基礎に大きな支障が出るのは明らかである。

5)「5.新しい積算基準とその考え方」

本章では第一に、各大学演習林がそれぞれ描く教育・研究林としてのあるべき姿を追求するに当たり、現在の森林を最低限、維持していくための基準を設けることとした。そのためにまず、13大学(35箇所の演習林)に対して実施したアンケート調査結果のうちから、主として管理面積の分布に着目して10大学(12箇所の演習林)を選定し、森林管理、森林維持の現状を把握した。ちなみに12箇所の演習林の面積合計は63,460haであり、全大学演習林面積133,845ha47%である。

そのうえで、各種の作業ごとに一定の基準的な人工数と経費を設定した。具体的には「植栽林」、「天然林」、「共通項目」の3つに大分類して、各大分類のなかに必要な小項目を設けた。「植栽林」の小項目は@採種園・採穂園の管理、A苗畑の管理と育苗、B地拵・植付け、C保育(下刈・除伐・つるきり・枝打ち・保育間伐)の4種類、「天然林」の小項目は@天然更新補助作業、「共通項目」の小項目は@林内巡視と防火線管理、A森林計画の策定、B道路の維持管理、C車両の維持管理、D気象害対策、E鳥獣害対策、F病虫害対策、G収穫調査、H素材生産、I林産物販売、J安全教育の11種類として、それぞれの小項目ごとに必要な人工数と必要経費の基準を設定した。

そして、これらの各小項目における基準的な人工数と経費を基にして、あらためて10大学(12箇所の演習林)に関するシミュレーションを行った。その結果、10大学(12箇所の演習林)が現在の森林状態を最低限、維持していくためには、年間54千人の延べ労働力とそのための労賃が必要となり、この他に消耗品費として約1億円の経費が発生する。管理面積1haあたりに換算すると1年間に0.85人分の人件費と1.66千円の消耗品費が必要である旨の結論に至った。

ただしこの数値はいわば現状の追認であり、各大学が目標とする森林管理の姿を実現するための基礎的処方箋にすぎない。各大学演習林はこの追認にとどまらず、目標とする森林管理の姿を追及するべきであるが、WGの作業は基礎的処方箋の段階にとどめ、そのうえにたつ目標の追求とそれに必要な人工数と経費の算出は各大学に委ねることとした。

なお、ここで対象とした経費はあくまで森林の維持管理経費のみであり、演習林運営に必要なそれ以外の維持管理経費、人件費、教育・研究費などはいっさい含まれていない。これらの経費は別途、積算する必要がある。

 第二に、各大学演習林が連携して実施しうるモニタリング、各大学演習林が独自に実施する公開講座等についても数大学にアンケート調査を実施し、その結果に基づいてさらにシミュレーションを行った。このシミュレーション結果を基礎にして、各大学演習林が所与の人員などに応じてモニタリング、公開講座等の可能性を追求するならば、それぞれに必要な予算額を積算できる。

6)「6.おわりに―大学演習林の森林を健全な状態で維持、管理するために」

2000(平成12)年度予算における「基準額」の大幅削減と「収入見合い」に対する掛け率引き上げの意図するところは、各大学演習林における収入増加、つまり伐採量の増大である。しかし大学演習林内外の情勢変化に規定されて、演習林の進むべき方向がすでに大きく変わってきている。

大学演習林の新しい使命は、森林に関するさまざまな教育・研究を行うためのフィールドたり得ることである。そのため、多様な種類のデータが蓄積され、それを基礎にして、大学演習林から社会に向けて多くの種類の情報が発信されている。森林を健全な状態に維持するのは森林を管理する者の普遍的、社会的責務であるが、大学演習林の森林は多様な種類の教育・研究を行うために特に健全な状態に維持される必要がある。そのように維持された森林はそれ自体が貴重な学術的価値を有し、また森林管理の履歴や森林の成長経過に関するデータがよく整備されている。この点が大学演習林の特徴である。

歴史、規模、運営の特徴など各大学演習林の個性は大きく異なるものの、一方では個性を生かしながら、他方では共通項を足場にして互いの連携を深め、各大学演習林がフィ―ルド科学の組織体としてさらに発展していくことが可能である。本報告はそのための基礎的な指針を示したのであるが、この指針を基礎にして、各大学演習林がさらに固有の具体的な森林管理像、固有の教育・研究像などとの整合性を図る手続きを行うならば、そこには自ずから各大学演習林にふさわしい予算のあり方が導き出されるであろう。

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