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Field Science Center for Northern Biosphere, Hokkaido University

研究detail

とりくんでいるテーマ

生態系の保全と両立する林業・森林管理


clearcut  selectioncut   harvesting  

左:皆伐跡地の景観 中:択伐林の景観(雨龍研究林)右:冬季の伐採施業現場(雨龍研究林)

非皆伐施業

木材生産を目的として管理されてきた森林では、効率よく立木を収穫するために、 一般に「単純な構造」が指向されてきました。多くの人工造林地では、林冠層を構成する種はふつう単一で、 樹齢や木のサイズも一様です。こうした「均質性」が、本来の自然林に備わっている多様な構造や環境条件を単純化させ、 生態系の諸機能の発揮を妨げていると考えられています。そこで、生態系の保全を考慮した森林施業を考えると、 森林の構造や組成に「複雑さ」「不均質性」を導入することが重要です。 皆伐・一斉造林のシステムに代わって「非皆伐施業」が、 世界的にも多くの国や地域で注目されるようになってきました。

北海道の択伐施業

北海道で広く行われてきた「択伐施業」も非皆伐施業のひとつですが、生態系の保全を必ずしも中心に意図していたわけではなく、 これまでの研究の多くも「収穫」の持続性に注目したものでした。私たちは現在、北海道の各地域に設定された観測プロットにおいて、 施業がもたらす、長期的な森林の構造や組成・種多様性の変化を調べています。 また、それらのプロットで得られた森林動態のデータをもとに、シミュレーションモデルを作成し、 収穫のみならず、生態学的に持続可能な森林管理方法を提案することに取り組んでいます。

自然撹乱

自然状態の森林における不均質性は、「自然撹乱」(台風や山火事・土砂崩れなどによる森林の破壊)によってもたらされます。 自然攪乱は多くの立木個体の死亡を通して、倒木や枯死木、マウンドなど、生物多様性に重要な構造を提供します。 森林施業においては、一定の収穫を伴う以上、これらの構造の量や質を原生林と同じレベルに保つことは不可能ですが、 経済的な効率性との間で「どれだけバランスをとるか」が重要となります。 こうした観点から、自然撹乱に関する研究を並行して進めています。

     

左:2004年の15号台風による風倒木(雨龍研究林)中:その際に生じた風倒マウンド(同上)
右:一面に広がるササ地(同上)

森林の再生

私たちが主として対象としている多雪地域の森林は、一般に、森林施業にとっては自然・経営的条件が不利であり、 実際、多くの地域で、過去の施業が森林に少なからぬダメージを与えてきました。 こうした「劣化した森林の回復」がもうひとつの大きなテーマです。わが国の多雪地域ではササ類の存在が森林の回復を妨げる要因となっています。 北海道では重機を用いてササを表土ごと取り除く「掻き起し」という作業が広く行なわれており、その効果を、施業後の炭素貯留などの生態系機能の評価も交えながら明らかにしています。 また、放置された人工林・二次林の取り扱いが全国的な課題となっています。 生態系保全・風致等の目的が重視される場合には、複層・混交林化や、より自然度の高い植生の回復を意図するケースも多くなっていることから、 北海道・本州の数箇所で、実験的な施業の効果を明らかにするための研究にも携わってきました。

左:択伐施業によって管理されている森林(北海道・置戸道有林) 
右:重機を用いた地拵え「掻き起し」地(雨龍研究林)



Ecological Forestry

sweden  oregon   quebek

左:生態系保全を考慮した林業地域の景観(スウェーデン)
中:生態系保全のために導入された非皆伐施業(アメリカ・オレゴン)
右:特定の樹種を保全するために行われている群状択伐(カナダ・ケベック)

‘Ecological Forestry’は、まっすぐに訳せば「生態学的な林業」です。 ただし、これには少し注釈が必要です。林業、そしてそれを支えた林学は、さまざまな生態学的な知見とともにに発展してきました。 その意味で、あらためて’Ecological Forestry’というのは誤解を招くかもしれません。 ここでの用法は、Seymour & Hunter (1999)に紹介されるもので、単に生態学的な知見に基づくというのではなく、 「生態学的なパターンやプロセスを重視する(損なわない)」という意味が込められています。 「生態系の保全を考慮した林業」と言い換えるとわかりやすいかもしれません。 実はこのような考え方を含む林業にはいろいろな呼ばれ方があって、次のような名称も使われています (カッコ内は代表的な文献です。2句目以降は、’forestry’、’models’、’forest management’ などさまざまですが、ここではとくに最初の句に注目してください)。

New forestry (Franklin 1989)
Sustainable forestry (Sverdrup & Stjernquist 2002)
Compatible forestry (Monserud et al. 2003)
Natural disturbance models (Armstrong 1999)
Emulating forestry (McRae et al. 2001)
Uneven-aged forest management (Puttonen & Valkonen 2004)

このような考え方の林業は、1980年代の後半に発展を始めました。 その嚆矢であるアメリカ西海岸では、それが’New forestry’と呼ばれました。 ’Sustainable’「持続可能」は、近年よく使われる用語ですが、 「生態系全体の持続可能性を考慮した林業」というニュアンスです。 ただし、この便利な用語は、狭義にも使われることに注意する必要があります (例えば、木材収穫の持続可能性をターゲットとした施業が、同じように呼ばれることがあります)。 一方、’Compatible’「両立できる」は、「生産と保全の両方を考慮する林業」です。 これに近い用語として’Balance’もキーワードです (Seymour & Hunter 1999に’Balanced forestry‘の用法があります)。 私が以前参加した国際研究集会のタイトルは’Balancing ecosystem values’でしたが、 これはスローガンとしてわかりやすいと感じました。

後の3つはやや詳しい説明が必要でしょう。 ’Emulating forestry’には、「生態学的なパターンやプロセスを模倣する林業」という、 施業方針の具体的な考え方が込められています。これをさらに具体的にしたのが、 次の’Natural disturbance-based’で、模倣の対象として「自然攪乱」が重要であることを示しています。 ’Uneven-aged forestry’は、施業後の森林の姿に注目したもので、 皆伐施業によってもたらされる一斉林(’Even-aged forest’)ではなく、 より複雑な構造をもつ森林への指向がうたわれています。

森林生態系のプロセスを考慮した森林の取り扱い

多くの諸外国と同様、戦後の日本の林業は、皆伐+針葉樹一斉造林が主流であり、 その進展の中で、原生的な森林の多くが失われてきました。 皆伐施業は、経済的効率の高さなど利点もありますが、 環境や景観の急激な変化をもたらすことから、 生態系の機能や生物多様性の保全を考慮した施業としては一般には不適だと認識されています。

それでは、代替案としてどのような施業が望ましいでしょうか?  いまこの問いが、森林施業の研究者にとって新しい、大きな課題となっています。 もちろん、森林の施業は、自然条件・社会条件に大きく制約されるものなので 一般的な解答があるわけではありませんが、 「地域の原生的な森林生態系のプロセスやその構造・特性をできる限り模倣する」というのが、 多くの場合に基本的な考え方となっています。

生態系プロセスとしてとくに重視されるのは、その地域に生じる「自然攪乱」 (台風や山火事・土砂崩れなどによる森林の破壊)です。 自然攪乱は多くの立木個体の死亡を伴いますが、森林施業において、その規模や空間的配置を模すことが、 その森林固有の生物多様性の維持・回復に寄与することが期待されるからです。 例えば、比較的小規模な風倒(ギャップ形成)が多い森林では、 より大規模な一斉風倒が卓越する森林よりも、択伐のような部分的伐採(抜き伐り) を行なうほうが理に適っているといえます。

それに加えて、原生林に固有の構造や特性を考慮し、 それらを残存あるいは創出することが提案されています。 具体的には、樹種の混交や階層構造の発達、大径木や倒木・枯死木の存在が重要です。 これらの構造や特性は、森林内における空間的な不均質性(=さまざまな物理的・生物的環境が提供される) に寄与し、一般に、集約的な施業の下では失われる(あるいは減少する)可能性が高いものといえます。 これらを意図的に残存させる(失われている場合には創出する)ことで、 生物多様性保全と矛盾しない施業が可能になるだろう、というのが考え方の基礎になっています。

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左:皆伐を避けて残存木を意図的に残した施業(フィンランド北部)
右:侵入した広葉樹を排除せず混交林として管理する施業(フィンランド北部)

しかし、一定の収穫を伴う以上、これらを原生林と同じレベルに保つことは不可能です。 実際の施業への応用では、経済的な効率性と残存レベルとの間で「どれだけバランスをとるか」 ということが鍵となります。重要と考えられる構造・特性を付加(または除去)することを 施業システムの中で考慮するとともに、その生態学的影響を定量的に把握することが重要であるといえます。 基本的には、下記のような考え方がいわば「公理」となっています。

皆伐を避ける:  すべての立木をいっせいに収穫すること(=皆伐)を避けることが多くの地域で原則になっています。 このことは、従前から皆伐施業が行なわれ、それが林業的に成功していた場合でも例外ではありません。 こうした地域においても、従来の施業を修正して、 最低でも5-10本/ha程度の上層木を残存させることが広く求められています。

大径木の残存:  大径木や老木・空洞や大枝を持つ立木は、小動物や鳥類に利用されることから、 とくに生物多様性の価値が高いとみなされ、伐採対象から外すことがしばしば求められています。

樹種の混交・階層構造の発達:  多くの樹種が混交することは、階層構造の発達に寄与し、林分の不均質性を高めます。 北方林や針葉樹人工林においては、とくに広葉樹の混交が期待されます。 具体的には、天然更新した広葉樹を排除しないこと、 主伐の際に一定割合以上を残存させることなどが求められることが多いといえます。

倒木・枯死木の残存:  倒木や枯死木は、多くの生物種のハビタットとして機能することが知られており、重要な保全の対象です。 このような研究の先進地であるアメリカ西海岸では、 大きい倒木が10本/ha、立ち枯れ木が7-25本/haという目標の数値例が示されています(FSCによる森林認証基準)。 また若齢人工林や集約的な管理が行なわれてきた森林では、 巻き枯らしや梢端の処理によって立ち枯れ木を創出することも求められています。

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左:原生的な森林における倒木(アメリカ・オレゴン州)
右:人為的に形成した「立ち枯れ」(アメリカ・オレゴン州)

この他にも、国や地域ごとに、多岐にわたる項目について考え方が整理されつつあります。 ただし、残存レベル(どのくらいの量を残すか?)と特定の機能(生物の密度など)との関係に関する 情報についてはまだ不足しているのが現状です。倒木・枯死木で示したような数値基準は、 例えば、鳥類による利用頻度とその個体数・行動範囲等から暫定的に算定されているようですが、 その妥当性の評価を含めてなお検討が要されるものがほとんどです。

以上に示した基準は林分レベルでの取り扱いが中心でしたが、 より広い景観レベルでの考慮も欠かせません。 重要な構造・特性を残存させながら、林分の連続性を確保するような配置を考える必要があります。 渓畔域(流路から一定の距離の範囲内)では一切の施業を避けるといった基準も、 基本的な事項としてしばしば求められるものです。

わが国においては、研究はまだまだ不足しています。 過去から現在にわたって行われてきた森林への働きかけの影響を評価し、 (必要であれば)それに対する代替案を、持続可能性や生物多様性・森林機能の保全の観点から、 客観的なデータを蓄積することが急務となっています。

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